望のいえ
都市部との境、谷間を流れる美しい川をいくつもの山々が守るように取巻き、季節ごとに彩りを変える木々を見渡す丘陵地の斜面。時に雲海も広がる圧倒的な景観に魅了され、定年後の穏やかで豊かな暮らしを望んで購入されたこの険しい傾斜地には、土地そのものの持つエネルギーが満ちていました。
茂るに任せた巨大なモミジやトネリコが枝葉を広げる足元はシダやカタクリの野草に覆われ、絶えずリスや鳥たちが恵みを求めて遊びに来る「生」にあふれた土地。
「地形に抗わず、この土地の生を活かしながら終の棲家としての望を実現させること」を柱にして設計した家です。
当然のようにすべての居室はこの圧倒的な景観を常時愉しめる配置を前提に。また、それぞれの居室が自らの領域を守りながら穏やかに愉しめるように。
眺望の特等席は2階のリビングダイニング。南西にハイサッシの大開口を配し、ぐるりとシースルーのバルコニーと深い軒で囲んだ大空間は、食事や読書、友人を招いて卓を囲むご夫婦がメインライフを過ごす場所。
隣接する浴室からは土地の重鎮である大モミジ越しに景色を望めます。
大きく張り出した屋根は夏場のサンコントロールの役目を担うとともに、雄大な水平線に呼応させて景色を水平に切り取っています。
1F和室と広縁は、手入れした庭木や盆栽、自生する植物の表情を間近で愉しめる旅館の一室のようなゲストルームに。
眺望とは反対側となる玄関ホールは、長さ99m・高さ5.7mの吹抜けとし、上階への移動が「森で木の上に登った時の景色の広がりと解放感」を期待して、中間領域としての性質をもたせています。コレクションの絵画や六万石をしつらえた裏庭を眺めるギャラリーホールとして、キャンチレバーの階段や華道のアートスペースなどを配した前衛的な意匠になりました。
魅了された景色を毎日望みながら、定年後に望んだ穏やかな生活の中でこの土地の持つエネルギーが建物によって増幅され、日々新たな気づきを生み、新たな望みを発見出来ることを願っています。